レセコン(レセプトコンピュータ)といえば、レセプト(医科、歯科では診療報酬明細書、調剤薬局では調剤報酬明細書)を発行するためのコンピュータだが、保有するデータには、診断結果や病歴、薬歴など、患者の最もセンシティブな個人情報が多く含まれている。
そのため、多くの医療機関では院外からアクセスできない、クローズドネットワーク環境を構築し、医療棟や医局棟間の機密情報の共有の際のウイルス感染や漏えいを防いでいる。では、調剤薬局はどうだろうか?
個人経営のいわゆる「パパママ薬局」が主流である調剤薬局業界では、大規模病院のような高価なシステムは導入できない。よって、より現実的な「レセコンはオフラインで使用し、レセプト提出のときだけインターネットにつなぐ」という方法がとられていることが多いようだが、業務効率やスタッフの利便性とのトレードオフとなっている。
現在、日本全国の調剤薬局の数は約5万5,000店といわれ、コンビニをしのぐ店舗数となっている。しかし、セブン-イレブン、ローソン、ファミリーマートのいわゆる「御三家」で80%を占有するコンビニ業界とは違い、調剤薬局業界は大手調剤チェーンに属さない中小規模の店舗が95%を占めている。
中小規模でもやっていける理由としては、薬局の開設者が薬剤師の資格を保有しているケースが多いことと、大手調剤チェーンが大病院のそばにいわゆる「門前薬局」を出店する一方で、中小は街中へ出店するといった住み分けができていることが挙げられる。
しかし、この経営環境にも大きな変化の波が押し寄せている。いわゆる「2025年問題」だ。
2025年には団塊世代が75歳以上になり、高齢患者がますます増える。患者が増えること自体は調剤薬局にとってありがたいことだが、国はこれ以上病院を増やすのは難しいため、これまでの病院医療から在宅(訪問)医療にシフトさせていきたいという考えにシフトしている。
この国の方向性により、すでに2014年には「2014年度の調剤報酬の改定」で門前薬局の調剤報酬が引き下げられており、また、異業種・隣接業種からの参入による競争の激化や、大規模チェーンのM&Aが積極的に進んでいる。
中小規模の調剤薬局が生き残っていくには、「保険調剤収益」を増やしつつ、「人件費」「医薬品等費」といったコスト削減が必要になるが、7倍超の売り手市場である薬剤師の給与や、医薬品の仕入れ価格は中小の調剤薬局が簡単にコントロールできることではない。保険調剤収益を増やすということは、より多くの処方箋を受け付けることであり、これには業務効率アップとそれに付随する情報セキュリティの担保が欠かせない。
この両方をリーズナブルに解決する手段として注目されているのが、ほとんどのレセコンの推奨OSとなっているWindowsの標準プロトコル「SMB」を使った、薬局内LAN上でのファイル共有だ。
技術者のなかでも意外と知られていない「SMB」とは、Server Message Blockの略で、ネットワーク上のWindowsマシン間で、共有フォルダ(共有ファイル・共有プリンタ)にアクセスする際使用される、ネットワークファイルシステムプロトコルのこと。以前は「CIFS」と呼ばれており、元々Windowsマシン間のみで使用されていたが、現在ではMac PCでも、Linux PC(ファイル共有にはオープンソースのSambaを使用する)でも使用可能。
調剤薬局の場合、まず上記OSがベースとなっているレセコン側が「サーバー」となり、このサーバー内の共有フォルダにあるデータを、レセコン周辺機器やタブレット端末が「クライアント」として「ファイル共有」する。この方法は、日本薬剤師会のNSIPS®(「New Standard Interface of Pharmacy-system Specifications」の頭文字で、レセコンや調剤鑑査システム、調剤システムを連動させるための共通仕様)でも推奨されており、標準的な共有フォルダの作成方法なども規定されている。あくまでも「ファイル共有」なので、データそのものはレセコン内に存在し移動しない。クライアントであるデバイス側が、リモートでファイルの読み取り、書き込み、編集、削除を行う。
NSIPS®の目的は「薬局業務のICT化」と「医療安全対策の充実」だが、上記の方法だと、特にレセコン側に新たなソフトウェアをインストールする必要がなく、またVPNなどの専用線契約も必要ないので、初期投資は最小限に抑えられる上、SMBによるファイル共有はインターネットにつながっていない薬局内のネットワーク上で行われ、また最新のSMBバージョンには、署名や暗号、アクセス権限の管理など多くのセキュリティ機能があるので、機密情報管理対策は万全となる。
つまり、最低限のコストで、大規模病院に匹敵する業務効率とセキュリティ対策の両方が可能となるのだ。
さて、ここで問題となるのがWindows OSではないデバイス側(クライアント側)のファイル共有機能をどうするかだ。
ひと昔前のWindows XPでは初歩的なSMBバージョン(1.0)が使用されており、これをサポートするSMBクライアントをレセコン周辺機器製造業者や、タブレット端末で使用するアプリ開発業者が自力で開発することは比較的容易だった。しかしWindowsのバージョンと共にSMBのバージョンも上がり(別記事「ALL ABOUT CIFS」参照)、最新のSMBプロトコルはバージョン3.1.1、開発の難易度は非常に高く、優秀なエンジニアでも一筋縄ではいかない。
また通常、中小規模の調剤薬局では、狭い調剤スペースに効率的に機材を収める必要があることから、デバイスそのものもより小型化が求められていて、オープンソースのSambaといたフットプリントの大きなソフトの使用ができない。またSambaはGPL(General Public License)の中でも一番厳しい(より明文化された)バージョン3を適用しているため、商用として採用するにはハードルが高すぎる。
この3つの課題:
1. よりセキュアな最新のSMBバージョンに対応していること
2. 開発が容易なこと
3. 省リソース設計かつ商用ソフトウェアであること
を解決するSMBクライアント機能を提供しているのが、Visuality Systems社の「YNQ™」製品だ。 Visuality Systemsは1998年に設立された、イスラエルに拠点を置くSMB関連製品・サービス分野におけるリーディングカンパニー。すでに商用SMB/CIFSソリューションでは、全世界でシェアーNo. 1を誇っている。
利用されるシーンは多岐に渡り、航空宇宙、オートメーション、ネットワークストレージ、プリンター、家電製品、スマートデバイスでも採用されている。
医療機器分野でも多くの実績があり、特にレセコン周辺機器・端末では以下の採用事例がある。
● レセコン連携タブレット端末(POSレジ端末、電子お薬手帳システム)
(POSレジ端末)
タブレット端末用アプリにYNQ™を実装。カウンターで受け取った処方箋データを入力したレセコンと連携することで、調剤薬局の受付スタッフが患者と金銭のやりとりをした時点で薬剤販売情報がシステムに集約・蓄積・分析され、お店の売上改善を図ることができる。
(電子お薬手帳システム)
同じくタブレット端末用アプリにYNQ™を実装し、レセコンに入力された処方箋データをファイル共有する。お薬手帳から取得する患者の薬歴と今回の調剤情報が受付のタブレット端末に表示されるため、薬剤師はタブレット端末を見ながら効率的に患者に服薬指導を行うことができる。
●レセコン連携調剤監査支援システム(電子天秤)
タッチパネル一体型の電子天秤にYNQ™を実装。レセコンに入力された処方箋データが瞬時にタッチパネルに表示されるため、調剤室にいる薬剤師は薬剤の種類や量を、パネルを見ながら確認することができる。
●レセコン以外の医療用PC連携検眼器、オージオメーター、MRIなど
検眼器、オージオメーター、MRIで取得した検査データを診察室のドクターのPCへ瞬時に表示することができる。
レセコン周辺機器に最新のSMBファイル共有機能を持たせることで、様々な調剤薬局業務の効率化とセキュリティ強化が低コストで実現でることが理解できただろうか。
今後少子高齢化が進んでいく中で、ますます増えていく高齢患者は複数の慢性疾患を抱えているものだ。処方箋を見せればどこの薬局でも薬を出してもらえるが、複数の医療機関に通院しているお年寄りの「かかりつけ薬局」となれれば、重複投薬などのリスクを防ぐことができる上に、調剤薬局は集患の悩みとも無縁でいられる。ここでカギとなるのは、患者の待ち時間の短縮と調剤の正確性、情報セキュリティの強化だ。実はすでに身近にあるファイル共有機能をレセコン周辺機器に搭載することで、調剤薬局が今後の生き残りを図るための一助となるだろう。