QUICはどこで生まれたのか?
QUICは2012年にGoogleが開発したインターネット・トランスポート・プロトコルです。品質とセキュリティを保ちつつ接続スピードを向上させることを目的とし、今日の帯域不足の問題と、レイテンシー(遅延)を嫌がるアプリケーションに対応するべく設計されました。Googleは、その世界的なユーザー数と様々な接続実装を利用して、新しいQUICプロトコルを調査、作成、実験し、2013年にChromiumバージョン29の一部として公式に発表しました。
QUICはUDP上で構成されるため、接続確立のために必要なハンドシェイクは1回のみです。複数のハンドシェイクを必要とするTCPと比べると、レイテンシーの大幅な低減が期待できます。またQUICは、以下に述べるように、TLS 1.3を使用することで更なるセキュリティを担保し、また、セッション・チケットを使用して再接続を高速化したり、確実な配信が必要なパケットを再送することで、TCPに比べて輻輳を劇的に軽減するなど、パフォーマンス向上のための新機能を導入しています。
QUICの主な特徴と利点
- セキュリティの強化
VPNがなくても接続中はエンドツーエンドでのデータ暗号化が可能。ハンドシェイクにはTLS1.3認証を使用。
- 接続性能の向上
接続確立に必要なハンドシェイクが1回で良いので、レイテンシーが大幅に短縮。また、セッション・チケットにより、再訪問サイトへの接続がTCPより速い。
- 高い信頼性
洗練されたパケットヘッダーメカニズムにより、パケット損失率が高い場合はリカバリを行い、信頼性の高い配信を必要とするパケットのみを再送。また、複数のデータストリームに1つのセッションを使用することにより、Head Of Lineブロッキング(待ち行列)を回避します。
- ユーザーエクスペリエンスの向上
QUICは、IPアドレスやポート番号とは別に独自のIDを割り当てるため、IPアドレスやポート番号の変更が起こっても、セルラー、Wi-Fi、有線ネットワーク間をシームレスに切り替えることが可能。
QUICはどこで使われているのか?
皆さんは、すでに毎日QUICを利用しています!QUICは、GoogleやYouTube、Gmailなどのアプリケーションだけでなく、FacebookやInstagram、Uberなど、多くのサービスで利用されています。そのシンプルさ、セキュリティの強さ、高い接続性は、配信の効率性が求められる、あらゆる環境に適しています。
企業のQUIC利用状況は?
多くの企業が、自社の製品、開発サイクル、ユースケースの一部としてQUICプロトコルを実装する利点をすでに実感しています。以下は、いくつかの大手企業によるQUICの活用事例です。
Microsoft
Microsoftは、新しいWindows OSとEdgeブラウザの一部として、QUIC接続を提供しています。QUICは、Windows 11とWindows Server 2022でサポートされています。また、ファイル共有向けのSMB over QUICのサポートも提供しています。SMB over QUICは、VPNを必要としない、Windows Server 2022の新しいセキュリティ機能の1つとして位置付けられています。SMB over QUICは、Windows Server 2022 Datacenter Azure Edition、およびWindows 11からのWindowsバージョンで使用可能です。
Alibaba
QUICプロトコルをサポートすることで、Alibaba Cloud CDNは、より速く、安定した、優れたユーザーエクスペリエンスを提供しています。シンプルなリクエストと認証により、ユーザーはコンテンツ配信効率の向上とデータ伝送の保護においてQUICプロトコルを活用することが可能です。
Facebookは、ネットワークを最適化し、より良いユーザーエクスペリエンスを実現するために、インターネットプロトコルをQUICに置き換えました。QUICプロトコルは、同社のインターネットトラフィックの75%以上に使用されており、その結果、Facebookのユーザーエクスペリエンスは大幅に改善。リクエストエラーの減少やテールレイテンシーの減少など、優れたメトリクスを得ることができました。
Akamai
Akamaiは QUIC を将来のプロトコル開発のためのプラットフォームと位置づけており、Google QUIC が利用可能になるとすぐに、その導入を決定しました。新しいトランスポート最適化手段を導入するのにパートナーや顧客と実証実験をしたいとき、同社はその研究の手段として QUIC フレームワーク、トランスポート・インバリアント、およびセキュリティインフラを用意しています。
Mozilla Firefox
Mozilla Firefoxがパフォーマンス向上に成功したのは、QUICを使用したことに大きく起因します。QUICをベースとするHTTP/3を使用することで、接続時間が短縮され、Head Of Lineブロッキングやパケット配信の遅延がなくなりました。QUICは、パケットロスの検出と修復の機能を向上させます。Firefox Nightlyは、Webサーバーがサポートしている場合、自動的にHTTP/3を使用します。
Uber
Uberモバイルアプリは、ユーザーが期待する高品質でリアルタイムなパフォーマンスを提供するために、低遅延で信頼性の高いネットワーク通信が必要不可欠です。QUICプロトコルを採用することで、Uberはトランスポートプロトコルのパフォーマンスをより適切に制御し、テールエンド・レイテンシーを最大30%削減することに成功しました。QUICは、ネットワークの接続状況が悪い環境でもUberアプリのパフォーマンス向上を助け、パケットの流れをエンドツーエンドで制御することで、ユーザーエクスペリエンス全体を向上させました。
SMB over QUICによるファイル共有機能の向上
SMB(Server Message Block)は、従来トランスポート・プロトコルとしてTCPを使用していましたが、SMBのメッセージはQUICパケットにカプセル化して入れることが可能なため、TCPではなくUDPでの送信が可能です。これにより、SMBはレイテンシーの短縮、パフォーマンスの向上、デフォルトでの暗号化など、QUICが提供するいくつかの恩恵を受けることが可能です。
SMB over QUICは、セキュリティの問題でブロックされていた従来のTCPでのネットワークを通過することができます。QUICはUDPを使用しているため、443番ポート(HTTPS)など、ファイアウォールで普通に開放されているポートで接続を確立することができます。Visuality SystemsのSMB over QUICソリューションの詳細はこちらから。
結論
以前はTCPが一般的かつ支配的なインターネットプロトコルと考えられていましたが、現在では QUICがゆっくりと、しかし確実に、その存在感を高めています。よってQUICがTCPに取って代わるのは、もはや時間の問題であると言っても過言ではないでしょう。